戦争が終わって、最初の春。
私たちは戦争で亡くなった人達の慰霊を行なうことになった。
今までオーブ再建やらなにやらでバタバタしてて、そういう事ちゃんとできなかったから。
一段落ついた時、カガリがそうしようって皆に呼び掛けてくれた。
地球での慰霊は…トールが亡くなった場所で行なわれる事になった。
私がそうして欲しくて、カガリに無理言ってお願いしたのだ。
キラやカガリが心配して、「本当にここでいいの?」って言ってくれたけど。
…いいの。ここでないと駄目なのよ。
トールの御両親にも連絡したけど、まだ辛そうで…、たぶん来てはくれないだろう。

オーブが用意した艦に乗って目的地へ。…懐かしい顔が揃っている。
マリューさん、ノイマンさん、トノムラさん、マードックさん…。
みんなオーブや地球の復興に関わってるけど、別々の場所で活動してるから、会うのは本当に久しぶりだ。
…そして
「よ、ミリィ!久しぶり。」
私を見つけて駆け寄って来るアイツ。
「ディアッカ。」

「来て、くれたんだ。」
「オレは来なきゃダメでしょ。」
「うん、…ありがと。」

「本当に久しぶりだよなあ。なんか、何年も会ってないように思えるんだけど。」
「大袈裟。」
暫く二人でなにげない会話をして微笑みあう。

ふと、彼がいたであろう方を見ると、紺碧の髪の青年がキラやカガリと話している。
「……アスランさんも、来てくれたのね…。」
「ああ。……あいつはさ、今回のこと聞いて、地球の方の慰霊、自分は行かない方がいいんじゃないか、って言ってたんだけど…」
ディアッカは私の様子を心配するように見つめている。
「オーブの姫さんに、『お前は来なきゃいけない、来るべきだ!』って言われたんだと。…逃げるなって。」
「…そう。」
「こっちが終わったら…キラも連れて、ニコルが死んだところに行く事になってるんだ…。」
地球に来る事になった時、皆でそうしようって決めたんだ。と、彼は遠くの海を見ながら呟いた。
…キラが殺してしまった、ディアッカ達のかつての仲間…。

「…大丈夫か?ミリィ…」
「なにが?」
「…いや。」

彼の云わんとする事はわかる。…アスランさんの姿を見て、もう全く平気でいられる、といえば嘘になる。
やはりまだ辛くて、まっすぐに見る事はできないけど…隣にいる彼にあの時向けた、燃え上がるような憎悪はもう無い。

「…ごめんね…。」
「ん?なにが?」
「…ううん、なんでもないの。」
ちょっと変な顔されたけど、「そ。」といって彼は再び海を見た。




慰霊はつつがなく行なわれた。キラとサイと私は少し泣いた。ディアッカはずっと私の肩を抱いて、何かを誓うように供えられた花を見つめていた。
ラクス歌声が、風にのって響く。

「(不思議…)」

あんな酷いことがあった、人がたくさん死んだこんな場所でも、穏やかな春の風がたくさんの生命を芽吹かせている。

「(トール…)」

忘れないから、ずっと。
今こうやって優しい気持ちでいられるのは、優しいあなたと一緒だった時間(とき)が在ったから。
私はあなたが遺してくれたものを持って、歩いていくわ。

私の小さな心の決意をくみとったのか、隣の彼は先ほどよりも強く肩を抱いてきた。

「(私、この人と歩いていくことになるかもね…。いい?トール…。)」






「しっかし、驚いたよな〜。」
「私も最初見た時は驚いたよ。」
慰霊が終わって、デッキで二人話していた時、マリューさんの話になった。
「あん中にもう一人、人間が入ってるなんて、すっげー不思議。」
「…人間入ってるって…そんな言い方…。」
なんだか興奮しているディアッカの言い回しに思わず苦笑した。…コーディネーターの感覚って、みんなそうなんだろうか?

ディアッカ達が到着した時は、もう大事をとってカガリが一番上等な船室に押し込めてた(?)もんだから、プラント組は慰霊が始るまでその姿を見てはいなかったのだ。

慰霊が終わった後すぐ、皆マリューさんのそばに駆けよった。
キラが最初に「あの…、おなかに触って良いですか?」と聞いて、「いいわよ。」とにっこり微笑んでくれたから、みんなが、じゃあオレも、私も、ってなって、結局子供である私たちはみんな順番にマリューさんのおなかに触れさせてもらった。
耳をお腹にあてると、とくんとくん、と命の息づく音。とてもあたたかくて、優しいかんじ。
プラント組は特に感動したらしく、あのイザークさんでさえ、はじめ、触れてはいけないものに触れるかのようにこわごわとしていたが、おなかの中で動いている、生きている生命を感じた後、驚き、頬を昂揚させ少し微笑んでいた。

「名前はもう、お決めになられたのですか?」
ラクスが訪ねると、
「…男の子なら、あの人の名前。女の子ならナタルって付けようかと思って。」
そう答えたマリューさんの顔はすごく優しかった。…もう、お母さんなんだ。

あの戦いの後、ドミニオンからの救命艇はまだ数隻無事でいた。
コックピットにいたらしいフレイ達は…撃たれてしまったから何が起こっていたのか詳しいことは分からなかったけど、ドミニオンのクルー達によるとナタルさんとアズラエルの間には確執があり、意見が対立していたそうだ。
総員退避させてくれたのも、ナタルさんだったそう。
…それを聞いた時、ノイマンさんが悲しい笑みを浮かべながら「やっぱり、あの人は…」とそっと呟いていたのを思い出した。


そんなことに思いを馳せていると、隣から
「ナチュラルって、生まれてくる子供、男か女かわかんないの?」
と質問された。
「わかるわよ。聞けば病院で教えてもらえる。でも聞かないで、生まれるまでの楽しみにすることもできるわ。」
そう答えると、「ふ〜ん、それもいいかもね…。」とニヤニヤしながらこっちを見ている。
…なによ、なんですか、その笑みは?
なんだか危険を感じて、彼から少し身体を離すと、それを制すように肩を抱かれた。
「…〜〜〜。」
顔を赤らめて睨む私に微笑みかけていたが、ふいに真剣な顔をして言った。

「…オッサンはすごいもん遺していったよなあ…。」
「え…?」
「あの時、オレに何かおこっても、オレ、ミリィに何も遺してやれなかったかも…。」
「なにいって…」
「遺せたとしても、それがミリィにとっていいものかどうか、わかんないもんな…。」
「ディアッカ…」
「…でもオッサンの遺したものは、確実に“未来”で“希望”だ…。」
夕焼けに染まった真っ赤な海を、紫の瞳で見つめている。
「…ばか。」
「………。」
「…あんたはちゃんとここに生きてるじゃないの…。生きて、私のこと守ってくれるんでしょう!?」
そんな彼らしくない弱気な言葉を聞いて、なんだか切なくて…目から涙が滲む。

世界が平和への道を歩んでいっているとはいえ、まだまだ問題は山積みで…。
それに確実に関わっている私たちには、酷く重く感じることがある。
…そんな時、すごく会いたくなる。
ディアッカもそうだったのかもしれない。
軍のエリートでMSを操っていても、戦争に出ていても、私たちはまだまだ子供で、ただの人間なんだもの。

「…そうだな。…ごめん、ミリィ…。」
そういって彼はきつく私を抱き締めた。


「宇宙の方の慰霊にも行くだろ?」
「うん、もちろん。」
「じゃあ、もう暫く一緒にいられるな。」
「…そうね。」
私は微笑んで、彼が触れてきた手をそっと握り返した。





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…マリューさんの妊娠設定は捏造です。これ書いた後、運命始まったので…。
えー、季節感というか、戦争が終わった時期はいつ頃なんでしょうか?(オイオイ)
なんか、まだ生まれてないって設定の方が良い気がしたもので。
本当はみんな生き残ってるのがベストなんですが、兄貴がああなった時、どうしてもなにかをマリューさんに遺していきたかったんですよ。…で、どっかのアニメのように、妊娠させました。
ナタルさんもあのままじゃ救われなさ過ぎだから、ドミニオンのクルーには生き残っていただきました。
(同じ艦に乗ってりゃあ、ごたごたも耳に入ってくるだろうし。)
とまあ、こんなカタチにしてしまったワケなんですが、どうでしょう。
(フラガのクローンを造るってネタも考えたんですが、それはちょっと色んな意味で怖くなりそうなんで。(笑))


19 : 春  20031003




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