目に見える戦争は終わった。
私たちは、たくさんのものを…本当にたくさんのものを失った。

どうして、こんな、しなくてもいい争いをやっていたのだろう…。
この手の中に残った物は消えない傷だけ。

そして本当の意味での“戦争”はきっとこれから始る。



    



ボロボロになったアークエンジェル、クサナギ、エターナルは、とりあえず近くのプラントに着艦することになった。
修理と燃料等の補給を済ませたら、私たちは地球へ、オーブヘ帰る。
艦の修理、整備はザフトに任せ、その間クルー達は休養をとれることになった。

皆、疲れきった顔をしていた。
…生き残ったのに、死人みたいな顔をしてる。…味方も、敵だった人達も。
そんな身体と心を少しでも癒そうと、あてがえられた部屋に入ると、すぐベットに横になった。
けれども、目をつむるだけでよみがえる、爆音と振動、目の前にある死への恐怖…。
「……はあ」
身体は休みたがっているはずなのに眠れなくて、私は部屋をそっと抜け出した。
階段を上り、屋上に出る。…夜の外気がひんやりと心地好い。

「(そういえば…)」
途中、女性の泣く声を聞いたような気がする。
自身の艦の、強く、美しい艦長のことを思う。
「(マリューさん…)」
愛しい人を亡くした気持ちは、痛いほど解る。
ときには、立ち止まったり振り返ったりすることも必要だと思う。それでもいつかは前を向き、進まなければならない。
私のそばにはいつの間にかアイツがいて、前を見ること、トールが本当に望んでいるであろうことを思い出させてくれたけれど…。
「(マリューさんなら…大丈夫よね…)」
その時

キイ…

と、扉の開く音がした。
振り向くと、月の光とおんなじ金色の髪が視界に入った。

「ミリアリア…?」
「ディアッカ……」
「やっぱミリアリアだ。」
顔を綻ばせ近づいてくる。
「あんたどうして、こんなとこにいるのよ。」
「それはミリィも一緒でしょ。」
「…ミリィって呼ばないでってば。」
「はあい。」
分ってるのか、いないのか…。こちらの気が抜けるような返事を返す。

「なんか、気配がしてさ。ミリアリアの。」
いつもの笑みを浮かべながら私の隣に腰をおろす。
「…なにそれ。だいたいあんた、怪我してるんだから寝てなきゃ駄目じゃない。」
「あ、心配してくれんだ。」
「あたりまえでしょ、バカ…。」
ふ、と彼の顔から笑みが消え、真剣な眼差しをこちらを向ける。
「…サンキュ。」
アメジストの瞳に捕われる。
「………。」
「大丈夫だよ。コーディネーターだから。こんなのすぐ治っちまう。」
ポンポン、と自分の頭に触れながらそう答えた彼は、いつもの笑顔に戻っていた。

そのまま暫く何の会話をすることもなく、二人なにげに空を眺めていた。
同じ宇宙なはずなのにヘリオポリスからとも、地球からとも違う景色。…でも
「同じくらいきれい…」
「なにが?」
「空……。今まであそこであんな酷い戦争があったなんて…なんか、嘘みたい…。」
「ミリアリア…」
スッと、空に手をかざしてみる。
「ヘリオポリスや地球で見た空と違う…。同じものなのに。」
「…だから戦争が起こるのかもな。」
「でも、同じように“きれいだ ”と思えるから、戦争、止められたのかもね。」
「そうだな。」
私が彼の方を向いて微笑むと、ディアッカも目を細めて微笑んでくれた。
…頭にまかれた包帯が痛々しい。

「……」

「…あんたが、生きててくれて良かった。」
どうしてだろう?ふいに私の口から言葉が零れた。
「え…?」
「バスターが、あんなふうになった時、すごく、恐かった…。」
「ミリィ…。」
「自分が死ぬかもしれないって思った時より、恐かったの…。」
喉の奥からなにかがこみあげてきて、声が、掠れる。
…思いが勝手に言葉になる。…止まらない。
「あんたなんか、きらい…だったはずなのに…。」
瞳から暖かい液体がこぼれ落ちる。

「生きて、帰ってきてくれて…嬉しい…。ありがと…ディアッカ……。」
せいっぱいの微笑みを彼に向けた瞬間、私は彼の胸の中におさまっていた。その温もりや重みが心地よくて、嬉しくて…涙がどんどん溢れてくる。
「…っふ、く…ぅ…」
胸の中で嗚咽する私に、彼の掠れた声が聞こえた。
「オレもミリィが生きててくれて、嬉しい…!」


私の涙を指で拭いながら、ディアッカはポツリと呟いた。
「フラガのおっさんが、護ってくれなかったら…ミリィ、ここにいなかったんだな…。」
少佐の最期…マリューさんの叫びが脳裏によみがえる …。
私は再びディアッカの肩に強く顔を埋めた。
「…う、ん。」
「あの時…ミリィがヤバかった時も、自分が死ぬかもしれないって思った時も、オレ、すげえ恐かった…。」
抱き締めている腕に力がこもる。
「…ミリィと、生きていきたかったから…。」
「…ディア…カ…。」
「…オレは生きて、ミリアリアを護るって決めてたから。」
「……!」
「ミリアリアのこと、一人にしない、悲しませないって…勝手に自分に誓ってた…。」
「…っ、ディアッカ…」
「死んだ奴らのこと、戦争だから仕方なかったなんて思えない…。でも、今、そいつらのおかげもあって、ミリィと自分が生きてること、感謝したい。…嬉しいんだ……。オレ、変か?」
私は声を出さずに、首を横に振った。

…武器を手にして生き残ったから…。
だから、生き抜いてやらなければいけないことがある。

私たちは暫くの間、お互いの肩に顔を埋め、抱き合った。
今はいない人達を思って。




ひとしきり泣いた後、身体を離し、お互いの赤くなった目を見て微笑みあった。
「うわ〜、オレ、カッコ悪〜。」
そう言って、ディアッカは目のまわりを、ごしごしやっている。
そんな様子を見て思わず声を出して笑うと、笑うなよ〜と言って小突いてきた。
優しい笑みを浮かべているその顔が、なんだか嬉しくて、おかしくて…。
私は久しぶりに、本当に笑えた。

「そうやって笑うミリィが見られるなんて、嘘みたいだ。」
「…そう、ね。私もディアッカとこんな風に話できるなんて、嘘みたい。」
私たちは自然に、手を繋ぎあっていた。



「ねえ、ディアッカはこれからどうするの?…やっぱり、このままプラントに残るの?」
「ああ、ホントはミリィと一緒にいたいんだけどね〜。アスランもラクス・クラインもここに残るっていってるし。…これからやること死ぬほどあるからな。一応、エリートな元同僚として手伝えることは、手伝ってやらねーと。」
そうしないと五月蝿いやつもいるし…。と、最後にボソリと呟いて遠くを見つめる。

「そう、キラもカガリも寂しいだろうな…。」
あの四人の繋がりって、なんだか特別だもん…。

「ミリィも」
「え?」
「寂しいでしょ?オレがいないと。」
ニヤリ、といつものあの笑み。
それを見た瞬間、頭に血液が集まる。
「ばっ…!、寂しいわ、け…」

………………

「……さ、寂しい、わよ。そりゃあ、私だって。」
赤くなった顔を隠すように俯いてこたえる。

「でしょう?」
ああ、もうっ、ニヤニヤするな!顔を覗き込むんじゃない!バカ…!

「い、言っとくけど皆と離ればなれになるのが寂しいんであってあんただけってわけじゃないんだからねっ」
早口で捲し立てると、

「うん、それでもいいよ。オレがいないと寂しい、ってことには変わりないもんね。」
と、ニヤリ。

「…う……。」
…私の負け。

「会いたくなったら連絡して。すぐ飛んで行くから。」
「…なに言ってんのよ……。」

そう返してみたけれど、こいつなら本当にすぐ来てくれそうで、私は微笑んだ。





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最後の方は、もはやただのバカップル。(笑)


13 : 月と星空  20031001




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