ディアッカがザフトからオーブのモルゲンレーテに移ってきて一月経つ。
技術交換と友好のための人事だったのだが、ディアッカは自らそれを望んだ。
少年とはいえ、評議委員の子息でザフトの元赤服。
コーディネイターの中でも彼は優秀であったから、少し反対もあったが、それを押し切ってやって来た。
ちなみにこの人事の期間は三ヶ月しかない。
なのにどうだろう。
こちらに来てからミリアリアとは一度も会っていない。
声も聞いていない。

「(何のためにこっちに来たのか、わかりゃしねー…。)」

思っていたより多忙で、この一ヶ月地下の施設にこもりきりだった。
太陽の光もひさしく見ておらず、褐色の肌も白くなるんじゃなかろうか、と思ったほどだ。
ミリアリア達もオーブのカレッジに戻ったが、並行してモルゲンレーテにも顔を出していると聞いていたので、すぐに会えると思っていたのに…。
やっと区切りがついて休暇が貰えたと思ったら、一月も経っていたのだ。

「(…まるでちょっとした浦島太郎じゃないか。)」

心の中でごちながら廊下を進む。



「あれ!ディアッカじゃないか!」
突然声をかけられ顔を上げると、見覚えのある懐かしい顔…サイがそこにいた。

「…よう。」
「久しぶりだね。来たとは聞いていたんだけど、全然姿見ないもんだから、どうしたのかと思ってたんんだ。」
「…地下に閉じ込められててね…。ここの連中も人使いが荒いぜ、まったく…。」
「ははは、御愁傷様。」

こんな世間話より一番に聞きたい事があるはずなのに、ディアッカはなぜか口を開けずにいた。
…するとサイの方から彼女の事に触れてきた。

「ミリィにはもう会った?連絡取ってる?」
「え、…あ、いや…。」
「そっか。その内会いに行ってやってよ。」
「…ああ。」

頼まれなくても、そうするつもりでこちらに来たのだが。
それに偶然会うなら何故ミリアリアに会わないのか…。
自分の運の無さに舌打ちしてみる。

モルゲンレーテを出て用意された宿舎のある居住区へ。…実は部屋には一度も足を踏み入れていない。
必要最低限の小さな荷物しか持って来てはいないが、その僅かな荷物を開く間もなく、地下に押し込められたのだ。

「(どこかでメシ食ってから帰るか…。…って宿舎の場所覚えてるか?俺。)」

様々な店鋪が並んでいるストリートをぼんやり歩く。
…目につくのは、例の彼女と同じ背格好の少女だったり、その瞳と同じ青々とした木々の緑ばかり。

『…サイと同じように偶然出会えるかもしれない。』

妙な期待を捨てられず、なんだかきょろきょろとしてしまう。
…連絡先は聞いていた(というか調べ上げた)のだから、さっさと連絡すれば良いだけの話なのだが。

「(…くそ、何やってんだ俺は。)」

今までの経験上、彼にとってはあり得ない事だった。
自分だけ、彼女に振り回されてる気がしてきた。

「〜〜かぁ〜〜〜っ、もう、やってらんねえ…!」


「何がよ。」


小さく不満を叫んだと同時に背後から声がした。

一瞬。
聞き間違えようもないその声に、躯が反応した。


「あんた、人相悪いのに。そんな顔してたら周りに迷惑でしょ。」

眉をひそませながら小声で話し掛けるミリアリアが其所にいた。

「…何ボーッとしてんの?大丈夫??」

自分と話す時だけ何故かキツイ口調の彼女の顔を見ただけで、顔の筋肉が緩んで口の端が自然と持ち上がっていくのがわかる。

「??何よ、そんな顔して。気持ち悪いわね…。」

もしかして自分は…本当はものすごく幸運な奴なのかもしれない。

捕虜にはなってしまったが、生き残る事は出来たし、なにより彼女に出会うことができた。
ひどく傷つけてしまったのに、こうやって話が出来ている。…しかも今はこうやって話し掛けられてもいる。
どれも不幸中の幸いなのだが、ディアッカにとっては最高に十二分の幸運。

「久しぶり。こんなトコで会うなんて、すっげえラッキー。」
「…さっきサイから連絡あったのよ。あんたと会ったって。御丁寧にあんたの宿舎はここら辺だって付け添えて。」
ミリアリアは少し怒ったように携帯を掲げた。

「じゃあ、俺のコト探しに来てくれたんだ。」
「ばっ…、違うわよ!たまたまここに買い物に来た時にサイから連絡があっただけの事よっ。」

赤くなって必死に否定する彼女も愛しい。

「(病気か、俺は。)」

どうかしている…だけどそんな自分も嫌いじゃない。(以前の自分からは本当に考えられないが。)
もしかしたら本当に病気なのかもしれない。


「…ていうか、あんたちゃんと御飯食べてる?ちょっと痩せたんじゃない?」
少し心配そうな面持ちで覗き込むミリアリアに少々ドキリとしたが、冷静を装って言葉を返す。

「そうなんだよー、ずーっと地下に閉じ込められててさあ。気が滅入っちゃって食欲なかったんだよねー。(よし、いつもの俺だ。)」
「…そうなの…。大丈夫、なの…?」
「心配してくれるんだ、嬉しいなあ。」
「もう、ふざけてないでよ。心配なの当たり前でしょっ。来たって連絡受けてから、一月も音沙汰無しで…。」
ミリアリアは俯いて瞳を逸らした。
「(…え、あ、あれ…?ちょっと、泣きそうじゃないか…?)……あー…えと、ごめん。…御心配お掛けしました…。」

「……ぶ…っ」
ディアッカが謝ったと同時に、俯いていたミリアリアが吹き出した。

「…し、しおらしいアンタって、なんか変なカンジ…!」
「なんだよ、それ…。」
笑われたので不機嫌な顔をしてみるが、やはりミリアリアは笑った顔の方が可愛い、と内心ほくそ笑む。



…しかし、ここで別れたら、また暫く会えなくなるんじゃないだろうか?
自分のために表情をくるくると変える彼女と、もう暫くは一緒に居たい。
…ディアッカは賭に出る事にした。

「なあ、これから一緒に食事しないか?」
「はあ?」
「どこか旨い店、案内してよ。俺詳しくないし。奢るからさ。」
給料は結構貰ってるんだよー、と手の中でカードをひらひらさせる。

一緒に働いてるオーブの連中が、やれ何処の店が良いだとか、此処が安くて旨いだとか、勝手に教えてくれたので、さして困ってはいなかったのだが。
的確な情報収集は世界を制す。
彼女の好みを少しでも把握出来る事は、今後大いに役立つだろう。
(…今後って有るのか?というツッコミは無しだ。…泣けてくるから…。)
その上、楽しい一時を過ごせるのだから(楽しく出来る自信は有る。)、一石二鳥だ。
そんな事を頭の中でぐるぐると考えている間に、ミリアリアは「そうね…」と考えをまとめるように頷いた。

「いいわ。美味しいもの食べれば、元気になるもんね。良いトコ案内してあげる。」
「!」
ディアッカは心の中で『やった!』と拳を作った。
…しかし続けて、ミリアリアはこう言い放った。

「けど借りは作りたくないから、奢ってくれなくてもいい。」
ミリアリアはキッパリとそう言うと、拒絶するように手の平をディアッカの鼻先に掲げた。

「はい?」

彼女らしくて良いのだが、『借り』とかそういう次元じゃなくって…。

「いいよ、奢ってやるって…。」
「いーりーまーせーんー。そんなに高くないお店だから平気なの。ほら、早く来なさいよ。」
「…ああ。」

なんだか少し不本意だったが、
最初の賭(?)には勝った事にしとこう。
と思いながら彼女の後に続くディアッカだった。





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ディアッカじゃなくて私が出たとこ勝負…。

ヤキン・ドゥーエ戦後ちょっと経ってからの捏造。
運が良いとか悪いとか、そういう話。


11 : 出たとこ勝負  20041101




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