終戦から二年と少し。
地球とプラントの交流がかなり友好的なものになってきた昨今。
…地球にはブルーコスモス、プラントにもいまだ活動を続けてる急進派の一部がいて、ごたごたは完全に治まったわけではないのだけれど。
それでも学生に戻った民間人のミリアリアが、キラやカガリについてプラントに行く事ができるのだから、かなり良い時代になったものである。

今までキラやカガリの友人で、AAに乗っていたということもあってか、ミリアリアはモルゲンレーテの特別な回線を使ってプラントと連絡を取ることが出来ていた。
少し前からは、一般人も通信回線を使って自由に情報交換ができるようになり、この前初めて自宅の通信機器でディアッカと話した。
(…というか、ディアッカからオーブの方に連絡をよこしてきたその度に、呼び出しをくらっていただけなのだが。)


『今度さあ、姫さんやキラ、こっちに来る事になってるだろ?』
「ええ、聞いてるわよ。」
『オレからも頼んでやるからさ、ミリィもプラント来いよ。』
「はあ?何言ってるのよ…。私、もう軍人じゃなくなったのよ。学生に戻ったの。ただの一般人なんだから。」
『ただの一般人にモルゲンレーテの通信機器、使わせたりしないでしょ。』
「あ・れ・は!あんたが我侭言って騒ぐから、キラやカガリが言ってくれて特別に使わせてもらってたのよ!だいたい毎回毎回呼び出されて、肩身狭いわ、恥ずかしいわ…。私用で使うモノじゃないんだからねーっ!」

なんだかその時の恥ずかしさが思い出されてきて、目の前のモニターに映っている人間にふつふつと怒りがわきあがる。

『ごめん、ごめん。怒んないでよ。でもさ、ホントに来てくれよ。見せたいものがあるんだ。絶対気に入るからさ。オレが付きっきりで護衛するから、安全も保証付き。』

と、ニコニコしながらピースサインをつくり、目の前でかかげている。
その表情にうんざりし、睨みつけながらミリアリアは言った。

「護衛するなら私じゃなくて、カガリとか、キラとか、キサカさんたちでしょ?」
『…あの三人は護らなくったって大丈夫だろ…。』
「………。」

…なんとなく、沈黙で同意する。

『姫さんには、アスランも付きっきりだろうし。』
「…そうね。」
『とにかくさ、来てくれよミリィ。絶対だぞ、約束な!』
「え、ええっ?ちょっと…!」

それだけ言うと、ディアッカは後ろから「仕事せんかー!」と怒鳴る銀髪の少年をたしなめつつ、一方的に通信を切ってしまった。

「…なんなのよ、まったく…。」

それでもそんな一個人の要求で、一般人である自分が行けるはず無い、と思っていたのだが…。

…なぜか次の日、「あいつから聞いたぞ。プラントに行く準備、しておけよ。」とカガリから連絡があった。
ミリアリアの意志は完全に無視である。

…それにしても。
何故そんなに簡単に事が進むのか…、とミリアリアは深いため息を一つ吐いた。




プラントに着き、オーブの代表を迎える歓迎のセレモニーも無事に終わり、要人以外の乗船者達もそろそろと艦から降り始めた。
タラップを降りて、地面に足を付けたと同時に響く、聞き覚えのある声。

「ミリアリア!」

「配置を離れるなー!!」と怒鳴る仲間の声を無視して、ニコニコしながらミリアリアに駆け寄ってくる。

「もー、アイツいちいち五月蝿いんだから…。ミリィの方が大事だっつの。なー?」

…「なー?」って言われても……。

「(ちゃんと仕事してるの?コイツ……。)」

確実に軍人として間違った事してるであろう男の顔を呆れた様子でじっと見てやると、「そんなにオレに会えて嬉しい?寂しかった?」などと勘違いな事を言ってミリアリアの顔を覗き込む。
…まあ…全部勘違いってワケじゃないし、こういう態度とってくれるのは、ちょっと、嬉しくはある、のだが。
こんなところで、大っぴらに…。

「…アンタ、何考えてんのよ。ちゃんと仕事しなきゃ駄目じゃないの。……それに恥ずかしいからやめて…。」

なんだか視線が集まってるような気がするのだ…。

「いいの、いいの。式典終わった時点で、オレは休暇にはいってるから。」
「…はあ?」
「あ、やべえ。アイツには言ってなかったけなあ…。でも、休暇届も受理されたし、アスランには言ってあるからいいか。」

怒鳴っていた同僚の少年の様子を伺いながら、一人納得している。

「じゃあ、行こうか。」

そう言ってミリアリアの荷物を取り上げると、その手をとって歩き出す。

「え?え??ちょ、ちょっと何処へ…。」

混乱してる少女に笑いかけながら、向かう先は…小型のシャトル。


訳が解らないままシャトルに乗り込んで、座席に着くと、ディアッカはなぜかいきなりミリアリアに目隠しをしはじめた。

「!!??ちょっと、なによこれ!?」
御丁寧にもアイマスクの上から、タオルのようなもので顔の上部を覆われる。
驚いたミリアリアがそれを外そうと手をかけると、

「あ、まって、まって、まって!いいって言うまで、ちょっとこのまま。すぐだから。」
頭の中は疑問符でいっぱいだったのだが、自分の言い分は通ることはないだろうと、仕方なく彼に従うことにした。



小一時間ほどたっただろうか。
シャトルは別のプラントのコロニーに着陸した。

「ねえ、これ、もうはずしていいのよね?」

ミリアリアは自分の異様な状態を訴えながら、目隠しに手をかけた。
しかし、
「まだ、もうちょっと。」
と、それを制せられる。

「なんでよ、ここから動くな、って事?」
「いや、ちゃんと手、引いていくから大丈夫。はい。」
「??!ええ!?」

視界を閉ざされたまま手を取られ、そろそろと進む。

「階段あるよ、気を付けて。」 
「やだちょっと、ホントに怖いんですけど…!これに何の意味があるのよーっ。」
「もうちょっと我慢だよ。…でもやっぱ危ないか…よし。」

そう言うとディアッカはミリアリアをひょい、と抱きかかえた。
俗に云う、『お姫様だっこ』とかいうやつだ。

「!!!やっ、やだっディアッカ!恥ずかしいでしょ!!…お、重いし…、おろしてよ!」
「いいじゃん。オレは楽しいよ。それにミリィ軽すぎるくらいだよ。」

……………。
周りに人、いるのだろうか?
目隠しされた女の子が抱きかかえられてるというこの異常な情景を、どんな目で見られているのか?
そんな思いが頭をよぎると、さっきほどよりも恥ずかしくなってしまい、ミリアリアは男の首に手を回し、肩に顔を隠すように押し付けた。

そんな自分を笑ってる男の気配を感じ、真っ赤になって心の中で悪態をつく。

「(むう…なによ、ナニがおかしいのよ。)」

……そりゃあ、こうして抱きかかえられてるのは、少しは楽しいのだけれど………ホントに少し……。



結局、そのまま抱きかかえられた状態でブツブツと男に文句をいいながら15分ほど移動しただろうか。

「(…?…なんか、良い匂い……。)」

風に乗ってきたやわらかな香りを感じて、思わず顔をあげると、

「あ、やっぱり分かった?じゃ、そろそろ目隠し取ろっか。」
と、ゆっくり地面におろされ目隠しを外される。

「(! 眩し…)」

一瞬。
目隠しをされていたせいで、光に視界をつぶされた。
暫くして、光に慣れてきた瞳に映ったものは…

「わ、ああ…!」

ミリアリアは思わず感嘆の声をあげた。

「素敵……。」

それは虹のように咲き乱れた、見渡す限りの花畑…。
どうやら種類ごと、色ごとにきちんきちんと区分されているようだ。
まるで色彩美しい碁盤の目をみているよう…。
ミリアリアはため息を一つ吐いた。

「気に入った?」
声を発さずコクコクと頷くミリアリアを見て、ディアッカは満足げに微笑んだ。

「ここはさ、親父がまかされてる農業プラントのひとつなんだけど。
親父の手伝いにちょこちょこついてまわってた時、ここ見てさ、ミリィに見せたいな、って思って。」
「うん、ありがとう…。すごくきれい…。」
「欲しい花あったら云って、貰ってあげるから。」
「ほんと?嬉しい。」

ミリアリアはここに来て、はじめてディアッカに微笑んだ。
ディアッカは、頬を赤く染め微笑むミリアリアの額にキスを落とすとその耳もとに囁いた。

「…ここの花達は俺達と同じなんだよ。」
「?」
顔を上げ、語り始めたディアッカを見やる。

「地球の花よりきれいに咲いている時間も寿命も長いし、病気にも強い、だけど自分達だけで種を残せないんだ。
…受粉は出来るんだけどね、なぜかどうしても種ができない。」

「だからここに咲いてる花はみんなクローンみたいなもんなんだよ。…人が手を加え続けないと、この代で終わってしまうんだ。」

「…でも、綺麗だわ。」
ミリアリアは、ディアッカの菫色の瞳を見ながら言った。

「それに案外、放っておいてもしたたかに生きてくものよ?」
ミリアリアは故郷の焼きただれた戦場のあとに咲いていた小さな花を思い出していた。
「植物って人間が思っているより強い生き物だもの。手を加え続けないと、なんて、ただの人間のおごりかも。」

ディアッカは腕の中の少女に一瞬目をみはり、そして微笑んだ。
「…やっぱ、ミリィはすごいわ。」
「? そう? …まあ、コーディネイターでもバカなやつはバカらしいしね。」
自国の姫が、いつかポロリとこぼした台詞を思い出しクスクスと笑う。

「はあ?なにそれ?」

あからさまに不機嫌な顔をしてディアッカはミリアリアをだきしめるのだった。





帰るまぎわ、ミリアリアは咲き誇っている花の中から、菫に似た薄紫色の花をちいさな鉢植えにして貰う事にした。

「こんな小さい花で良いの?もっと、ぶあっと大きい花束、用意できるよ?」
「これで良いわ。花束って結構かさばるし、それにこっちの方が地球に帰った後もずっと楽しめるでしょ?…プラントの花も強く生きていけるって、私が証明してあげる。」

そう断言したミリアリアを見てクスリと笑い、「楽しみにしてるよ。」とディアッカは呟いた。




「でも、どうしてその花にしたの?ミリィにはもっとこう、ピンクとかオレンジとか、あったかい色の方が似合いそうだけどな…。」
「…い、いいのっ。最近一番好きな色なの…こういう色。」
「ふうん…。」

赤い顔をしたミリアリアの真意にディアッカが気付いたのは、彼女が帰って暫くたったある日、鏡に映った自分の瞳の色を見た時だった。

「しまった…。ああー、また会いたいよ、ミリィー…。」

ディアッカはがっくりと頭を垂れて小さく叫ぶのだった。





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…設定とか嘘ばっかし…。捏造しまくりです。


6 : 花  20031206




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